Network Architecture Lab

RESEARCH

研究に関する最新のアクティビティ

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インターネット輻輳制御アルゴリズムに関する研究

図表

インターネットでは、多数の通信が限られたネットワーク資源を共有しており、輻輳(混雑)が発生すると通信速度の低下や遅延の増加、さらにはパケット損失が生じます。このため、送信速度を自律的に制御する「輻輳制御」は、インターネットを支える最も重要な基盤技術の一つです。しかし、近年ではクラウドサービス、動画配信、AI、IoTなどネットワーク利用形態が大きく変化し、従来の輻輳制御では高スループット・低遅延・公平性を同時に実現することが難しくなっています。

長谷川研究室では、現在広く利用されているBBR (Bottleneck Bandwidth and RTT) を中心に、次世代インターネットに適した輻輳制御アルゴリズムの研究を進めています。研究では、ネットワーク内で発生する遅延や帯域利用率だけでなく、各フローのRTT、競合状況、ECN(Explicit Congestion Notification)などの情報を活用し、ネットワークの状態をより正確に把握した上で通信速度を適応的に制御する新しい手法を提案しています。

具体的には、BBRの状態遷移や遅延検出機構を改良することで、異なるRTTを持つ通信間の公平性を向上させるとともに、不要なキュー蓄積を抑制し、通信遅延を低減する手法を提案しています。さらに、ECNが利用できない、あるいは適切に配置されていない実ネットワークに対しても、eBPFを用いて送信端末側から仮想的なECN信号を生成することで、既存のTCP実装やカーネルを変更することなく遅延を大幅に削減する技術も開発しています。また、各フローの帯域やRTTの変化を継続的に観測し、それぞれの通信状況に応じて制御を最適化することで、高いリンク利用率を維持しながら公平性と低遅延を両立する新しい輻輳制御方式の研究にも取り組んでいます。

これらの研究では、数理解析によるアルゴリズム設計、LinuxカーネルやeBPFを用いた実装、Mininetや実インターネット環境での性能評価を組み合わせることで、理論と実システムの両面から検証を行っています。将来的には、AI・クラウド・データセンタ・次世代通信ネットワークなど、多様な環境において高性能かつ低遅延な情報通信基盤を実現することを目指しています。

ネットワーク内輻輳制御 (NCC)に関する研究

図表

現在のインターネットでは、送信端末と受信端末だけがネットワークの状態を推定し、自律分散的に送信速度を制御するエンドツーエンド(End-to-End: E2E)輻輳制御が40年以上にわたって用いられています。しかし、近年のインターネットはクラウド、データセンタ、衛星通信、5G/6G、IoTなど、多様な特性を持つネットワークが相互接続される極めて複雑な環境へと変化しており、単一のエンドツーエンド制御だけでは高い通信性能を実現することが難しくなっています。

長谷川研究室では、この問題を根本から解決する新しいネットワークアーキテクチャとして、「ネットワーク内輻輳制御(In-Network Congestion Control: NCC)」を提案しています。NCCでは、通信経路上にNCCノードを配置し、従来1本だったエンドツーエンド通信を複数のサブパスへ分割します。それぞれのサブパスでは独立した輻輳制御を行うため、伝搬遅延やパケット損失率が小さい単純なネットワークとして扱うことができます。さらに、衛星通信区間、モバイルネットワーク区間、データセンタ区間など、それぞれの特性に適した輻輳制御アルゴリズムを適用することで、エンドツーエンド通信全体のスループット、公平性、拡張性の向上を実現します。理論解析では、NCCノードを導入するだけで最大159%、複数ノードを適切に配置することで最大258%のスループット向上と、最大151%の公平性向上が期待できることを示しています。

一方で、サブパス間の通信速度が異なる場合には、NCCノード内にデータが蓄積し、遅延やバッファオーバーフローを引き起こすという新たな課題が生じます。そこで本研究では、NCCノード内部の受信バッファと中間バッファ間のデータ転送量を動的に制御する新しいバッファ管理方式を提案しました。この方式では、TCPのAdvertised Windowを利用して前段サブパスの送信速度を間接的に制御し、後段サブパスの処理能力に合わせてデータ流量を調整します。実装による評価では、エンドツーエンドスループットを維持したまま、NCCノード内のデータ蓄積量を約1KBまで抑制できることを確認しました。これにより、NCCの実用化に向けた重要な技術課題を解決し、将来のインターネットアーキテクチャ実現への道筋を示しています。

機械学習によるネットワーク環境推定に基づくインターネット輻輳制御

図表

現在のインターネットでは、輻輳制御アルゴリズムは送信端末から観測できるRTT、パケット損失、ACK到着間隔などの限られた情報だけを用いて、ネットワークの混雑状況を推定しながら送信速度を制御しています。しかし、ボトルネックリンクで何本の通信フローが競合しているのか、あるいは競合相手がどのような輻輳制御アルゴリズムを利用しているのかといった重要な情報は直接観測できません。このような「見えないネットワーク状態」が、スループットの低下や通信の不公平性を引き起こす大きな要因となっています。

長谷川研究室では、このブラックボックス化されたネットワーク内部の状態を、機械学習を用いて送信端末だけから推定する研究を進めています。送信端末が取得できるRTT、スループット、ACK間隔、パケット送信間隔、再送数などの時系列データを特徴量として利用し、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)やRandom Forestなどの機械学習モデルを構築することで、ボトルネックリンクで競合しているフロー数や、競合フローが利用している輻輳制御アルゴリズムを高い精度で推定できることを示しました。これらの推定は送信端末だけで実現できるため、ネットワーク機器や受信端末を変更する必要がなく、現在のインターネットへ容易に導入できる点も特徴です。

さらに、本研究では推定したネットワーク状態を実際の輻輳制御へ利用することにも取り組んでいます。例えば、競合フローが利用している輻輳制御アルゴリズムを推定し、その結果に応じて自分自身のアルゴリズムを適応的に変更することで、異なるアルゴリズム同士が競合した場合に発生する帯域利用の不公平性を大幅に改善できることを確認しました。また、競合フロー数の推定結果を利用することで、ネットワークの混雑状況に応じた送信速度制御やパラメータ調整など、新しい適応型輻輳制御への応用も期待されています。

本研究は、「ネットワーク内部は観測できない」という従来の前提を、機械学習によって覆そうとする試みです。見えなかったネットワーク状態を推定し、その情報をリアルタイムに活用することで、将来のインターネットにおいてより高速・低遅延・高公平な通信を実現する、新しい知的ネットワーク制御技術の確立を目指しています。

大規模ネットワーク管理のための情報圧縮転送技術に関する研究

図表

近年のネットワークシステムは、クラウドやデータセンタ、通信事業者ネットワークなどを中心に大規模化・複雑化が進んでいます。これらのシステムを安定して運用するためには、ネットワーク機器への遠隔操作や、各機器から生成される膨大なログ情報をリアルタイムに収集・解析することが不可欠です。しかし、管理用ネットワークは帯域が限られる場合も多く、障害発生時には利用可能な帯域がさらに低下するため、管理情報そのものがネットワークの負荷となることがあります。そのため、ネットワーク管理情報を効率よく転送する技術が重要な研究課題となっています。

長谷川研究室では、ネットワーク管理情報に特化した新しい情報圧縮方式を提案しています。本研究では、コマンドやログを単なる文字列として扱うのではなく、単語列として解析し、「どの単語の後にどの単語が現れやすいか」という文脈(コンテキスト)を学習した木構造辞書を用いて圧縮を行います。さらに、送信側と受信側で辞書を同期させることで、辞書そのものを送信する必要がなく、短いコマンドやログであっても非常に高い圧縮率を実現できます。実際のネットワーク機器のコマンド・レスポンス履歴や運用ログを用いた評価では、従来方式を大きく上回る圧縮性能を達成し、管理トラフィックを大幅に削減できることを示しました。

さらに、大規模ネットワークではログを1行ずつリアルタイムに収集する必要があるため、最新の研究ではストリーミングログ圧縮方式「LogCAFD(Log Compression with Context-Aware and Context-Free Dictionaries)」を提案しています。LogCAFDでは、従来の文脈依存辞書に加えて、文脈に依存しない辞書も併用することで未知のログにも柔軟に対応します。また、タイムスタンプを数値として扱う手法や、ファイルパスや識別子を細かいトークンへ分割する方式を導入することで、辞書の肥大化を防ぎながら圧縮効率を向上させています。その結果、多様な実運用ログや公開ログデータセットに対して、従来のログ圧縮方式を上回る圧縮性能を達成しました。

これらの研究により、ネットワーク管理トラフィックを削減しながら、リアルタイムな障害検知や大規模ログ解析を効率的に実現できます。今後は、AIを用いた異常検知や自律型ネットワーク管理と組み合わせることで、次世代ネットワークの運用基盤を支える情報圧縮・転送技術への発展を目指しています。

マイクロサービスアーキテクチャに基づくソフトウェア実装構成の最適化技術に関する研究

図表

近年、多くのWebサービスやクラウドシステムでは、システム全体を多数の小さな機能(マイクロサービス)に分割して構築する「マイクロサービスアーキテクチャ」が広く利用されています。この方式では、各機能を独立して開発・更新・拡張できるため、保守性や拡張性に優れる一方、ソフトウェアの数が増えることで障害が発生しやすくなり、システム全体の可用性を維持することが難しくなるという課題があります。また、機能を細かく分割しすぎるとサーバ資源や通信量が増加し、逆に統合しすぎると一つの障害がシステム全体へ影響しやすくなるため、適切な構成を決定することは容易ではありません。

長谷川研究室では、このようなマイクロサービスシステムの設計を数理的に最適化する研究を進めています。本研究では、アプリケーションを構成する機能、ソフトウェア、サーバの故障率や利用可能なCPU・メモリなどの資源制約を考慮した可用性モデルを構築し、「どの機能を一つのソフトウェアとして実装するか(実装構成)」と、「どのソフトウェアを何台のサーバへ複製するか(冗長構成)」を同時に決定する最適化問題として定式化しました。この問題は組合せ爆発が生じるNP困難問題であり、大規模システムでは総当たり探索による最適解の導出は現実的ではありません。

そこで本研究では、多点スタート型ヒルクライミング法を用いた高速な近似最適化アルゴリズムを提案しました。まず、サービスの分割・統合・移動を繰り返しながら資源利用効率の高い実装構成を探索し、その後、各ソフトウェアの複製数を段階的に決定することで、高い可用性を実現する構成を短時間で導出します。評価では、総当たり探索と比較して最大1000分の1以下の計算時間で、ほぼ最適なシステム可用性を達成できることを確認しました。また、100サービス規模の大規模システムに対しても実用的な時間で最適化できることを示しています。

本研究は、「モノリシックに構築すべきか、それともマイクロサービス化すべきか」という従来は設計者の経験に依存していた判断を、数理モデルと最適化アルゴリズムによって自動化することを目指しています。今後は、可用性だけでなく、応答時間、スループット、通信遅延、消費電力なども考慮した多目的最適化へ発展させることで、クラウドやエッジコンピューティングを支える次世代アプリケーションシステムの自動設計技術の確立を目指しています。

エッジ・クラウド協調型システムの設計と最適化に関する研究

図表

近年、クラウドコンピューティングは、Webサービス、IoT、AIなど多くの情報システムの基盤として利用されています。一方で、クラウドサーバは利用者から離れた場所に設置されることが多く、通信遅延やネットワーク負荷の増大が課題となっています。これを解決する技術として、利用者の近くに設置したエッジサーバでデータの一部を処理する「エッジコンピューティング」が注目されています。しかし、エッジサーバを利用すれば常に性能が向上するわけではありません。通信環境やデータ量、サーバ性能によっては、エッジを経由することで処理時間や通信負荷がかえって増加する場合もあります。

長谷川研究室では、エッジとクラウドを状況に応じて適切に使い分けることで、限られた無線ネットワーク資源を効率よく利用するための研究を進めています。まず、端末、エッジサーバ、クラウドサーバから構成されるシステムの数理モデルを構築し、データ転送時間、サーバ処理時間、通信遅延、パケット損失率などを考慮して、端末が無線ネットワーク資源を占有する時間を解析しました。この解析により、通信遅延やパケットロス率、クラウドサーバの性能、データ量などによって、エッジを利用すべき条件と利用しない方がよい条件が存在することを明らかにしました。

さらに、実際のローカル5G環境とパブリッククラウドを用いた実験を行い、機械学習を利用して「エッジで処理するか」「クラウドで処理するか」をリアルタイムに判断する手法を提案しています。Random ForestやLightGBMなどの機械学習モデルに、RTT、送信データ量、エッジで処理するデータの割合などを入力することで、理想的な判断に対して平均0.1~3%程度の差しかない高精度な意思決定を実現しました。これにより、無線ネットワーク資源の占有時間を大幅に削減しながら、ネットワーク全体の利用効率を向上できることを示しています。

本研究は、エッジコンピューティングを単に導入するのではなく、ネットワークやサーバの状態を理解し、最適な処理場所を自律的に選択する知的なシステムの実現を目指しています。今後は、Beyond 5G/6GネットワークやAIアプリケーション、IoTシステムなど、多様なエッジ・クラウド環境へ適用することで、高速・低遅延・省エネルギーな次世代情報通信基盤の構築を目指しています。

その他の研究テーマ例

図表

近年の情報通信ネットワークは、Beyond 5G/6G、IoT、クラウド、エッジコンピューティングなどの普及に伴い、これまで以上に多様なサービスや利用形態に対応することが求められています。そのためには、高速・低遅延な通信だけでなく、限られたネットワーク資源や計算資源を効率よく利用しながら、高い信頼性や柔軟性を実現するシステム設計が不可欠です。長谷川研究室では、このような将来の情報通信基盤を支えるため、ネットワークシステム全体の設計・最適化・資源管理に関する研究を幅広く進めています。

具体的には、Beyond 5G時代を見据え、利用者一人ひとりの要求に応じてネットワークを動的に構成するユーザ指向ネットワークスライシングアーキテクチャの研究や、ローカル5G環境において基地局、エッジサーバ、クラウドへ通信処理機能を最適に配置する技術を研究しています。また、IoT端末の爆発的な増加に対応するため、モバイルコアネットワークのCPUやメモリを効率よく利用する資源管理手法や、シグナリング制御の最適化にも取り組んでいます。

さらに、クラウドネイティブなネットワークシステムを対象として、サーバレス環境とコンテナ環境に実装したマイクロサービスの性能比較や、負荷変動に応じた最適な実装環境の選択手法を研究しています。加えて、生体の遺伝子ネットワークや生化学反応に着想を得た自律分散型ネットワーク制御を提案し、少ない冗長化コストで高い耐障害性を実現する新しいネットワーク設計にも取り組んでいます。これらの研究は、従来の情報通信分野だけでなく、生物学など異分野の知見も積極的に取り入れ、新しいネットワークアーキテクチャの創出を目指すものです。

これらの研究では、数理モデルによる理論解析、最適化アルゴリズム、シミュレーション、AI・機械学習、実ネットワーク実験を組み合わせることで、実用性と学術的新規性を両立したシステム技術の確立を目指しています。将来のBeyond 5G/6G、クラウド、IoT、スマートシティなど、多様な情報通信システムを支える基盤技術として、より柔軟で高性能、高信頼なネットワークアーキテクチャの実現に貢献することを目標としています。

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