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Network Architecture Lab
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インターネットには多数の輻輳制御アルゴリズムを持つフローが混在しており、今後もその傾向は変わらないと考えられる。異なるアルゴリズムを持つフローがボトルネックリンクで競合した時の各フロー性能の不公平性は無視することができず、旧来のアルゴリズムの挙動により、性能が良いはずの新しいアルゴリズムが駆逐されることの原因にもなり得る。一方で、インターネットは様々な特性を持つネットワークが相互接続されて構成されており、現在のエンド間制御にのみに依存している輻輳制御ではネットワーク性能を十分に使い切れず、また所望のアプリケーション性能を得ることも難しい。そのため現状では、設備投資にともない向上する平均的な性能に応じて、アプリケーション設計が行われている。
本研究では、今後ますます多様化するインターネットのための、新たな輻輳制御アーキテクチャを提案している。具体的には、既存のインターネット輻輳制御が依りどころとしているエンドツーエンド原則から脱却し、送受信端末間ネットワークを複数のサブネットワークに分割し、各サブネットワークにおいて、その特性に応じた輻輳制御アルゴリズムを個別に適用する。これにより、これまで長年に渡って培われてきたインターネット輻輳制御技術の利点を最大限に活かしながら、エンド間ネットワークの複雑化・大規模化・多様化などに対してその性能が低下しない、理想的な輻輳制御を実現する。
現在のインターネットで主に使われている輻輳制御アルゴリズムの1つにBBRと呼ばれるものがある。BBRはデータ転送スループット、転送遅延などの観点で高い性能が得られるとされており、コンテンツ配信サーバなどで多く利用されているが、RTTの違いによるフロー間の不公平性、CUBICなどの他の主要な輻輳制御アルゴリズムとの公平性などに課題を抱えている。
本研究では、BBRが持つ様々な性質を数学的解析、コンピュータシミュレーション、実機実験などにより明らかにするとともに、その性能を改善し、インターネットにおける帯域の有効利用性やフロー間・ユーザ間の公平性を高める技術に関する研究を行っている。
インターネットの多様化や高速化に伴い,これまでに様々な輻輳制御アルゴリズムが提案され,インターネットには多数のアルゴリズムに基づく輻輳制御機構を用いたフローが混在している.したがって,ネットワークのボトルネックとなる箇所において,異なる輻輳制御アルゴリズムを持つフローが競合する状況は避けられない.そのようなフローが競合した際の,各フローのスループットや往復遅延時間等の性能差はアルゴリズムの組み合わせによって異なり,著しい不公平が発生する場合がある.
このような問題に対し,我々の研究グループでは,競合フローの輻輳制御アルゴリズムを推定し,推定結果に基づいて自身の輻輳制御アルゴリズムを変更することにより、フロー間の公平性を改善することを提案している。具体的には,送信端末によるネットワークやフローの状態の観測結果に基づき,機械学習アルゴリズムを用いて競合フローの輻輳制御アルゴリズムを推定し,推定結果に応じて自フローの輻輳制御機構を変更する.評価の結果,推定手法による競合フローのアルゴリズムの推定精度は最大で70%であり、推定結果に基づくアルゴリズムの切替により、フロー間の公平性を最大で78%改善できることを明らかにした。
さらに、ネットワークボトルネックで自フローと帯域を競合している他のフロー数を、自フローが観測できる情報のみを用いて推定する技術に関する研究を行っている。仮想ネットワークを用いた実験により、提案する推定手法により、競合フロー数を役25%の誤差で推定できることがわかった。
5G ネットワーク、及び将来のBeyond 5G ネットワークにおいては、アプリケーションやサービス毎にネットワークスライスが仮想化された物理ネットワークから構築される。その際、物理ネットワーク資源を有効に利用するためには、スライスへの資源割り当てを適切に行うことが重要である。本研究では、セルラネットワークトラヒックを対象に、過去のトラヒック量の履歴から、将来のトラヒック量を推定し、その結果に応じて確保するネットワーク資源を決定するために、機械学習に基づくトラヒック推定方法、及び推定結果に基づく確保資源量の決定方法を検討している。トラヒック量の推定値から確保すべき資源量を最適化することにより、資源が不足する状況の発生と、資源が過剰になる状況の発生をバランス良く抑えることを目指している。さらに、ネットワーク資源確保の対象となるトラヒックの多重度を大きくすることや、トラヒック推定の学習方法などの工夫により、さらなる性能向上を目指している。
モバイルエッジコンピューティングやマルチアクセスエッジコンピューティングなどのエッジコンピューティング技術は、セルラネットワークのCentralized RAN (C-RAN) における複数基地局の協調制御やベースバンド処理の機能分割などの無線信号処理から、自動運転技術、Virtual Reality (VR)、Augmented Reality AR、及びMixed Reality (MR) などのxR 技術、Cyber Physical System (CPS) などのアプリ ケーション処理まで、様々な面での有効性が期待されている。一方で、Beyond 5G ネットワークはミリ波やテラヘルツ波などの、これまで使われてこなかった周波数帯を利用した通信がより拡大することが期待されている。しかし、無線ネットワーク資源が有限であることは変わりがなく、その有効利用はBeyond 5G ネットワークにおいても重要な課題である。
本研究では、エッジコンピューティング技術が5G ネットワークやBeyond 5G の無線ネットワーク資源の有効利用に寄与することを明らかにするために、セルラネットワーク端末がデータ転送のために無線ネットワーク資源を占有する時間に関する解析モデルを提案している。具体的には、端末がアイドル状態からアクティブ状態になるためのシグナリング、TCP やUDP を用いたデータ転送、及び、エッジサーバとクラウドサーバにおけるデータ処理のそれぞれにかかる時間とそれらの大小関係に基づいて、無線ネットワーク資源の占有時間を導出している。解析結果に基づいて、エッジサーバの利用により無線ネットワーク資源の占有時間の短縮効果が、ネットワーク環境だけではなく、用いるデータ転送プロトコル、パケット送出レート等に大きな影響を受けることを定量的に明らかにした。さらに、5G ネットワークやBeyond 5G ネットワークで期待される、無線ネットワーク部分の伝送時間の短縮が、エッジコンピューティング導入の効果に与える影響を明らかにした。
デジタルツインを実現するためのサイバーシステムの構築においては、大量のカメラやセンサ端末等から発生するデータを収集・処理する必要があり、その消費電力低減は重要な課題である。本研究では、カメラ端末から発生するストリームデータをエッジ及びクラウドサーバにおいて収集・処理する際のシステム全体の消費電力最小化するための、処理方法を決定することを目的とし、環境条件やアプリケーション要求が一ヶ所で集中的に得られる場合における、集中型の最適化方式を検討している。具体的には、問題を線形計画問題として定式化し、ソルバを用いることで解を得る。実環境を想定したパラメータ設定を用いた数値評価結果より、消費電力が最小化される処理方法が得られることを確認し、計算時間や適用可能なシステム規模に関する議論を行っている。
ネットワーク機器の管理において,ネットワーク管理者は機器が具備する対話型操作機能を用いて 障害解決や設定の変更を行う.障害発生時においても確実にネットワーク経由で機器を遠隔操作するため には,専用の管理用ネットワークを構築する必要があるが,設備コストが課題となる.ここで,長距離通 信が可能なLPWA を用いることで安価に管理ネットワークを構築できれば,その利点は大きい.しかし, LPWA の通信速度は遅いため,対話型操作に使用することは難しい.そこで本研究では,ネットワーク機器 のアウトオブバンド管理における通信量を削減するために,対話型操作コマンドに含まれる単語の出現確 率に基づくコマンド系列の符号化手法を提案している。提案手法を用いて圧縮を行うプログラムを試作し,これを用いた実験の結果、ネットワーク機器管理のための通信量を最大で96%削減できることを明らかにした。
携帯電話加入者数の増加や高機能なスマートフォン等の普及により,モバイルネットワークにおいて,ユーザプレーンとコントロールプレーンの双方において発生する輻輳への対応が課題となっている.特にコントロールプレーンの輻輳については,新たな需要拡大を伴う通信形態であるMachine-to-Machine (M2M) 通信やIoT (Internet of Things) 通信による影響が大きいと指摘されている.M2M/IoT通信は,通信するデータ量そのものは多くはないが,端末数が膨大になるとされており,その通信特性はユーザ端末のそれとは大きく異なる.そのため,M2M/IoT通信を行う端末を従来端末と同じ方式でモバイルネットワークに接続すると,特にコントロールプレーンの輻輳が悪化すると考えられる.
そこで本研究では,セルラIoT通信を考慮したモバイルセルラネットワークの性能解析を行うことで,端末収容能力の評価を行った.具体的には,IoTのためのセルラ通信としてLTE及びNB-IoTを対象とし,端末がアイドル状態からアクティブ状態になり,通信を行うまでの一連の動作における,制御プレーン及びユーザプレーンの性能解析を行った.解析はランダムアクセス手順,無線資源の割当,ベアラ確立,データ転送の各プロセスを含むエンドツーエンドで行った.また,IoT通信に多いサイズの小さなデータ通信において有効と考えられる,データ転送終了後直ちに無線資源を解放する手法の評価を行った.評価の結果,NB-IoTがLTEに比べて最大で8.7倍の端末を収容できるが,データ転送時間が大きいことを示した.また,無線資源の即時開放によってネットワーク容量が最大で17.7倍に拡大し,IoT端末の収容に効果的であることを示した.
5Gネットワークや将来のBeyond 5Gネットワークにおいては,モバイルネットワークを構成するRadio Access Network (RAN)やフロントホールネットワーク,バックホールネットワークの再考が進んでいる.そのような新たなネットワークにおいては,資源利用効率を高めるために,計算機資源やネットワーク資源の仮想化技術が前提となる.特に,Software Defined Network (SDN)技術は,ネットワークの柔軟な制御を可能とする重要な技術として考えられている.モバイルネットワークに対して仮想化技術を適用することで,トラヒック需要の変動に応じた柔軟な計算機資源の制御やネットワーク制御が可能となる.例えば,従来ハードウェアによって行われていた,モバイルトラヒックのベースバンド処理をソフトウェア化し,トラヒック量やアプリケーション要求等に応じてその実行箇所を決定することによって,フロントホールネットワークの利用率の削減や,システム全体の省電力化が可能であると考えられている.
そこで本研究では,TWDM-PONを用いて構築される第5世代携帯電話ネットワークのためのフロントホールネットワークを対象に,ベースバンド処理,モバイルコア処理,及びアプリケーション処理の機能分割の最適化を行うための新たな数学モデルを構築し,最適な機能配置を得るための最適化問題として定式化した.具体的には,TWDM-PONのネットワーク資源量,基地局数,トラヒック量,サーバの消費電力などを考慮して,ベースバンド処理の各レイヤの処理,モバイルコア処理,及びアプリケーション処理を,基地局サイト,局舎サイト,及びクラウド環境において分割して実行することで,システム性能を最適化する最適化問題を定義した.解析結果の数値例を示すことによって,システムの各パラメータと最適な機能分割との関係を明らかにした.
5Gネットワークにおいては,物理的なネットワーク資源を仮想化したネットワークスライスをサービスやアプリケーション毎に構築し,端末を収容することで,大容量通信,超多数通信,機器間通信などの様々な品質要求を持つ端末を効率的かつ柔軟にネットワークに収容することが検討されている.しかし,将来のBeyond 5Gや6Gネットワークにおいては,ユーザのネットワークやアプリケーションに対する要求はさらに細分化かつ個人化することが期待されており,5Gにおけるサービス単位のスライス提供ではそのような多様な要求に応えることができない.
そこで本研究では,User-Oriented Network slicing Architecture (UONA) と呼ぶ新しいネットワークアーキテクチャを提案した.その特徴は,サービス/アプリケーション毎ではなく,ユーザ毎にネットワークスライスを構築・提供することにより,多様な要求に応えること,ネットワークスライスを構築するプロセスを,部分的なネットワークに対応するサブスライスの構築と,サブスライスを組み合わせてネットワークスライスを構築する2つに分割すること,及び,端末のモビリティ,要求品質の変化に応じて動的にスライスを再構成すること,にある.本研究では,UONAの全体アーキテクチャの詳細を提示し,その利点と実現にあたっての課題をまとめた.
また,UONAの有効性を示すために,モバイルネットワークにおいて,物理的なセルを仮想化した仮想セルを構築することによって端末のハンドオーバ時の処理を軽減する,というシナリオを想定し,5Gのサービス単位でネットワークスライスを提供する手法と,UONAによる動的かつユーザ単位でネットワークスライスを提供する手法の比較評価を行った.その結果,UONAにおいて適切にパラメータチューニングを行うことで,物理的なセルの大きさ,端末の移動速度,シグナリングにかかる時間の大きさに依らず,端末のハンドオーバ処理における,ネットワーク側のシグナリング負荷を小さくできること,また,端末がより時間のかかるハンドオーバ処理を実行する頻度を低減できることを明らかにした.